東芝ノートPC20周年記念商品ということで、相当に気合いが入ったと思われる。
デザイン的には誰もがハッとする印象的な代物だが、果たしてその実態はいかなる物か。
筆者としては、満員電車に連れ込めないモバイルPCなんて、あまり意味が無いと思う。
可搬性を無視するなら、もっとプレミアムな作りにして欲しかった。
【概要】■dynabook SS S20シリーズとは東芝ノートPC20周年記念商品として、新リブレットと同時に発表された。 最もdynabookらしいモデルは、モバイルPCだという自負から生まれたのだろうし、ぱっと見仕事の出来るヤングエグゼクティブ(死語?)向けのスマートなパソコンに見えるので、さすが東芝と言いたいところだが、実はやっぱり東芝なのである。 正直、詰めが甘い……というか、譲って欲しくないところを譲ってしまった残念なマシンなのである。 ■コンシューマモデルの型番は微妙だコンシューマモデルは今回もSXだが、SX 190とSX 290という微妙な型番が与えられた。 このセンスの無さに脱帽。こんなシリーズとしての統一性の感じられない型番を付けてしまった東芝の企画営業マンにはタマネギ賞だ。(※「混沌の館にて」著者のジェリー・パーネル氏に倣ってみたヨ) dynabook SS SXシリーズには筐体の違う3世代のモデルが存在しており、それぞれ法人モデルでは1600シリーズ、S20シリーズ、S30シリーズと明確に括る事が出来るのだが、コンシューマモデルでは型番に世代間の意味が持たされていないため、括れない。 SXシリーズと言ってしまうと、35mmのぶ厚いパソコンも20mmを切るパソコンもシングルスピンドルなら同じだという乱暴な区分けになるし、SX以降のモデル名を見ても、理解不能だ。 ・SX210/2211/3211 ・・・SS1600シリーズのコンシューマモデル →下が黒で分厚いSX ・SX190/290 ・・・SS20シリーズのコンシューマモデル →薄いSX ・SX490/495/15A/17A ・・・ SS30シリーズのコンシューマモデル →全部銀で分厚いSX ホンマ、 小一時間問い詰めたい。 【各機能ごとの詳細】■デザインについて非常に洗練されたデザインだが、青色の光が使っていると目に付く。 ■可搬性について S9以来の薄型筐体だが、剛性も高い。 バッテリーが大きくなったおかげで、中身はしっかり詰まっている。 薄いので、鞄には収めやすいし、バッテリーも長持ちするので標準バッテリーだけで歩き回れる安心感がある。 最薄部9.9mmは、見ての通りデザイン処理でごまかした数字なので、最厚部の数字で考えよう。 ■操作性について・悪くはないがやや退化したキーボード キーボードとモニターの枠は、コンシューマ用とビジネス用で色が変えられているが、SS1600系と基本的に同一の形状である。 残念ながら、SS2100系と似ているが、完全に置き換えられる物ではない。 ・操作性の劣るタッチパッドタッチパッドは、銀色のメッキ塗装が施されたプラスチックである。見た目がぎらぎらしている割に、触った感触は安っぽい。また、指紋が残りやすく、ThinkPadのピアノブラック塗装と同じく、しょっちゅう拭いていないと汚い。 さらに、タッチパッドの中心がキーボードのホームポジションより若干右にずれている。スペースバーから距離が若干あるため、あまり角度は付かないが、左右の指で使い勝手が違うのはやはり今ひとつかと。 ・液晶カバーは丈夫になったが使い勝手今ひとつ 特徴的なラッチレスの液晶カバーだが、ラッチを外すために閉じる力が強くなっており、以前のモデルのように片手で開くのは難しい。 デザイン優先で、操作性が犠牲になっているようなのが残念だし、道具としての洗練度を落としているように感じる。それどころか、このおかげで不用意に液晶面に指を突いてしまい、割ってしまう危険も増しているのだ。 また、隅の方を持って無理矢理開閉していると液晶が限界以上にたわむためか、突如液晶が割れてしまうケースも多数見受けられた。SS2100系では無かったことだ。 そして、SS2100系と似たような筐体を持ちながら、液晶パネルの開く角度が狭くなっている。机の上に置いて使う分には全く問題ないが、立てた膝の上に乗せて使うといった、グータラな事をしようとすると、140度ぐらいで開かなくなる液晶が恨めしくなる。 体操座りのように立てた膝に乗っけて使うときなど、180度近くまで開ける方が使いやすい。 ■性能について・チップセットは中途半端915GMチップセットは、855シリーズより1世代新しく、Vistaに本格対応した945シリーズより1世代古い。DDR2メモリに対応したが、位置づけとしては中途半端である。 グラフィック性能も向上しているが、世の中の要求スペックも上がってしまっているので、3Dゲームを快適に動かすには至らない。また、本来はデュアルチャネル動作でメインメモリ性能を上げたいところだが、そのような構成にはなっていない。 基本は、CPUが同じSS1600系と比べると、チップセットの世代が一つ新しいので、性能は同等か少し改善されているはずだが、同一CPUのSS1620とメモリ512MBの状態で比較すると、どうもS20系の方が重いような気がする。 恐らく、セキュリティ関係のソフトが大量にインストールされているおかげで、メインメモリが圧迫されていることと、ハードディスクの性能が原因かと思われるが、微妙に裏切られ感がある。 チップセットが新しくなっており、DirectX9に対応するなどグラフィック性能が向上しているので、メモリを積んでいけば性能向上を実感するかもしれないが。 ・ハードディスクは軽さ優先 ハードディスクがSS1600系と違い、1.8インチになっているため、絶対的な性能は少しダウンする。 携帯性と動作速度のトレードオフに悩んだThinkPadのX40シリーズと同じジレンマである。 なお、1.8インチHDDはSS2100 系と同様のパラレルインターフェースのため、新品の入手は困難である。 ・メモリ増設必須! また、オンボードメモリが256MBのまま据え置かれたことに関しては一言苦言を加えたい。 ホントに、3年前のS4の時から増えていないというのはどういう事か。これだけ高いマシンなのだから、最初からWindows XPの実用最低スペックである512MBにするのが良識というものだ。 ■拡張性についてSS2100、S9から特に変化無し。 SS1600系と比べると、CFカードスロットが削られ、USBポートが1ポート減って2ポートに減ったぐらいで、大きな影響は無し。 ■剛性について(特に液晶が割れやすい)液晶が弱く、満員電車で押されるなど、モバイルPCらしい運用をすると割れ易い。これが本機最大の問題点である。 実際、筆者の会社で導入したS21のほぼ半数が液晶割れに見舞われた。 筐体剛性そのものは間違いなく旧薄型モデルのSS2100、S9より高い。 筆者が数台の同型機を見る限り、キートップが液晶表面に触れて跡を残す事は依然存在するが、液晶の黒シミ問題はほぼ解消されている事が確認できた。 また、下側も大型のバッテリーパックが入っていることが影響してか、左右にしなる事が少ないのだ。 ただし、剛性が上がるとPCが壊れなくなると思うが、SS20シリーズの場合、外部からの力をうまく吸収できず、液晶が割れるという最悪の結果で帰ってくる。 Let's noteは全国最凶クラスの満員路線、東急田園都市線での圧力テストの結果を受けて剛性を高められ、またテストをされた。たぶん、実証によってこれだけの強度が必要というデータを得て、テスト方法もそれを反映させた物になっていると思う。 一方、東京都内でありながら青梅という田舎に引きこもって開発されたdynabookは、満員電車の本当の恐さを知らない技術者が、机上の空論をかざして作った代物のような気がしてならない。 ホームページでパームレストやキーボードに対する一点加圧試験の写真などが掲載されているが、本当に満員電車に入れたときにどんな圧力が掛かるかを知っていたら、外からの圧力に関してももう少しきっちり検証するはずだが。 全面加圧されるように板で挟むか、ジュラルミンケースに入れるなどして保護してやるしか無いのだろうか? ■追加された機能について指紋認証機能については、最近のモバイルPCのトレンド。使う、使わないは別にして、標準装備されている事は良いことだと思う。ログインやスクリーンセーバーのパスワードロックを指一つで解除出来るのは案外便利。 ハードディスクプロテクト機能は、以前から一部モデルで採用されていた機能だが、うっかりハードディスクを潰しかねないモバイルPCにとっては非常にうれしい機能。 ■総合評価実は、とんでもない低価格だったSS1600とは対照的に、値段が高くなってしまった。 高機能、スタイリッシュ、高価格という事で、メーカーとしては技術的ハードルも高く、20周年記念モデルにふさわしいと考えたのだろうが、残念ながら筆者は商品コンセプトの詰めの甘さを感じた。 特に、液晶がポンポン割れるのはモバイルPCとして失格である。怖くて外に持ち出せない。 買ってしまった人は、必ず中央部分に指をかけ、ゆっくり丁寧に液晶を開閉されることをオススメする。 また、東芝のせいではないが、PentiumMの超低電圧版があまりクロック向上していかなかったこともあり、性能面に関しても今ひとつ訴求力の弱いマシンになってしまったように思う。 |